古民家再生への願い(3)

画廊となりや

2012年09月16日 11:46

古民家再生への願い(3)
Aさん宅の場合(3)
                            
長い間住み続けてきた古い家。いざ再生を決意するといろいろなこだわりが出てきます。その家で暮らしてきた思い出がよみがえります。
薪で焚いた風呂は気持ちよく、いつまでもぽかぽか温まります。ほんとうは薪で焚く風呂にしたかったAさん。だんだん年老いていく自分を見つめシステムバスに決断したのだと思います。その分を薪ストーブで暖をとり、さらに掘り炬燵でという気持ちはよくわかります。
一方の奥さん、嫁いでこの方、不便を不便とも言えなかった台所での食事作り。あまり踏み入れたくない薄暗い部屋。新しい家はなんとしても明るいキッチンで明るい部屋で豊かな生活をしたいという主婦としての想い、これもとってもよくわかります。
 
 この願いを実現しながら、あとはどうするか?現実には予算との兼ね合いが出てきます。柱1本杉材にするか、桧材にするか。床はカラマツ材にすると……。総額ではかなりの違いが出てきます。
 広い1階です。2階はご夫婦2人だけの生活には必要ありません。今からお金をかけて部屋を仕切るより、将来子どもとか孫たちがこの家で暮らす場合は好きなように部屋を仕切ればいいと考え、強度を保つための壁と本好きなご夫婦の本棚をつけただけで広い空間のままの2階でした。

 ここにはコンサートやギャラリーで使える広い空間がありました。床は白木のままで塗ってありません。塗装費用もかかりませんし、1階と違いすごく新鮮な感じを受けました。














 天井はなく、梁組みがむき出しです。すごい太く曲がった赤松の梁組みです。何本もの梁を組んであり、この大きな家を支えています。

1枚の板や紙に描いた簡単な設計図だけで家を建てていた明治期。棟梁の経験にもとづく技が驚きと感嘆を呼びます。クレーンもない時代にこの太い材をどうやって持ち上げ、曲がった材をうまく組み合わせ梁をつくっていったのか……。
 
 







































 3階部分にあたる煙だしはおよそ20畳の広さがあります。階段をつければここに2部屋は作れそうです。
設計事務所の会長はこの部分を取り除くことを提案したそうですが、昔からの概観のまま後世に伝えたいと現状のままにしたといいます。これもご主人のこだわりなのでしょう。次の写真に天井から突き出たステンレス製のものが写っています。ダイニングルームに置く薪ストーブと繋がる煙突口です。
 



























 「工事の足場を組んであった時に煙だしの部分まで上がらしてもらい窓から外を見せてもらいました。すっごく高くて、眺めもよくて……。いい思い出になりました。」と、奥さん。
ここにロフトのような部屋をつくって住むのはお孫さんかなとも一瞬そんな思いがよぎりました。

 「2階の壁は赤レンガを粉末状にしたものを混ぜ込んだモルタル壁で、塗りあがった時にはピンク色で、まぁ~これは……とびっくりしちゃいましたが、2ケ月たって赤味がずいぶんぬけて落ち着いてきて安堵しました。」と奥さん。屋根板の真新しい材と比べても全く気にならない落ち着いた色合いになっていました。
 














 最後にご主人のこだわりを。 中央の柱に貼り紙がありました。工事の関係者にもわかるようにこの梁組みの間のわら縄やわらはそのままにと書かれていました。
125年の歴史の重みをこのまま残し後世に伝えたかったのだと思いました。


 



 




































 最後にきれいな線が残っている簓(ささら)子下見張り(簓縁)の戸袋を1階のアルミサッシ戸の両側についてありますが、昔はこの中に雨戸をしまい込んだものですが、飾りとして残したのは設計士さんのこだわりでしょう。Aさんもそれを望んだに違いありません。
 家を建てるというのは一世一大の大仕事。誰も限られた予算があります。その中で先祖が残してくれた古い家の良さを生かしながら、今風の住みやすさも追求し建てるのが古民家再生です。
 何軒もの再生の家を観て歩き、我が家の再生にこだわりを持って生かしたAさん。この家で生活を始めたら、さらに再生して本当に良かったという思いをかみしめることができるでしょう。

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